2025年02月20日

昔のキリスト教指導者たちの駆け引きの空気感を描く本のすごさ

最近、ヤングというイギリス人女性のキリスト教思想家が書いた本を読みました。キリスト教の理論は実は325年から451年までの126年間で完成しました。大変驚かされました。何にもまして彼女がキリスト教の指導者たちの活躍した126年間の生活空間を眺める際にグラデーションの手法(状況の階層的な推移を連続させて流麗に浮かび上がらせること)を用いて教会の歴史を描くことで指導者たちのあいだをつなぐ「交流の実態」を鮮やかに浮かび上がらせたからです。つまり指導者のあいだに流れていた「協力の気持ち」や「反発の勢い」や「正統な信仰を求める暗黙の熱意」や「正しさを保証するためには手段を択ばないほど緻密な策謀を巡らせる隠された心の意図」などを全部並べて、「絶妙なはぐらかしの駆け引きそのもの」を描いたのです。聖人が策略家で、俗悪な人がまともだったり。

これまでのキリスト教の研究書は難しい理屈を振りかざすだけで面白味がありませんでした。しかしヤングはすごいです。まるでフルカラーの巨大画面の鮮やかな映像を観るかのように繊細な空気感の人間関係の駆け引きの描写が卓越しているからです。

キリスト教思想家たちが活躍した古代の時期には、人々を神とつなげる救いの努力が正統な立場とされました。逆に、一個人の学問的理念の狭い枠内だけで真実を合理的・数学的に単純化して把握するだけで満足して他者の救いには具体的に踏み込まない立場が異端とされました。この異なる立場を描く際に、従来の研究者は「まず異端的な立場はこうで(どのような危機が先に生じたのかを第一に論述して)、次に正統な立場はこうで(危機に対処する動きを第二として対置させ)」と順序よく説明しました。しかしヤングは対立する指導者のありのままの交流(対立・隠された共通性・駆け引き・手段を択ばない策略などのあらゆる関係性を総合的に一挙に眺めることを「交流」として理解する)の空気感を描いたのです。ヤングのグラデーションの手法を使えば、私たちの複雑な人間関係の空気感も描けそうで興味深いですね。

画像の説明

※フランシス・M・ヤング著(関川泰寛・本城仰太訳)『ギリシア教父の世界——ニカイアからカルケドンまで』教文館、二〇二四年、本文六六一頁、索引・参考文献表五八頁。
原著 Frances M. Young with Andrew Teal, From Nicaea to Chalcedon: A Guide to the Literature and Its Background, Second Edition, SCM Press, 1983, 2010.