上杉謙信の座右の銘

戦国武将の上杉謙信が、あるとき若い家臣を集めてこんな話をしました。「川中島で武田信玄と戦ったときのことだ。武田方のある武将が、当家の勇者・落合彦助を討ち取ったと言いふらしたことがある」死んだはずの彦助は、謙信のそばでニコニコして座っています。「武田の武将は、主君に褒められたいために、ウソを言ったのだ。信玄は、彼の言葉を信じて褒美を与えたという。しかし、悪事はやがて必ず露見する。この話は、今でも武田家の大きな恥辱として語られている。」

 

ここまで言って、謙信は自身の座右の銘を語ります。「中国に『三人行けば必ず我が師あり』という言葉がある。三人いれば必ず他の人から学ぶところがあるという意味だ。自分以外の二人の言動を見て、善いところがあれば手本とし、悪いところがあれば同じ過ちを犯さないための戒めとしていくのだ。わたしは、武田の家臣がウソをついた話からも大切なことを学んだ。自分が精一杯やったかどうかは、他人の目ではなく、自分の心を証人として判断すべきである。たとえ素晴らしい働きをしたのに、周囲からまったく評価されなくても、誰も恨む必要はない。『おまえは、よくやった』と自分の心で誇れるならば、それが一番良いのだ。他人の目を気にして、その場を取り繕ったり、ウソ偽りを並べたりして得られる評価は、たいしたことがない。愚かなことである。」

 

謙信は、自分の手柄を競い合い、誇張して語る傾向のあった若い家臣たちへの戒めとして語ったこの話を、こんな言葉で結びました。『自分らしく、自分の心に恥じない生き方をせよ。』と。

谷 聡史