昔話に学ぶ心意気
昔、ある所に、たいそう貧しいおじいさんとおばあさんが、二人で暮らしていました。お正月を迎えようとしているのに、お餅を買うこともできません。そこで、二人は夏の間に刈り取っていたスゲを編んで、笠を造り、それを売ったお金で、餅米を買ってくることにしました。おじいさんは編んだ5つの笠をもって町へ出かけましたが、一つも売れませんでした。おじいさんはおりから降り始めた雪の中を、とぼとぼと家に向かって歩いていました。すると、道端にお地蔵さんが六体、雪に埋もれて立っているのを見つけました。お堂も木の陰もない吹きっさらしの雪の中、冷たくなって、顔からつららを垂らして並んでいるのです。
おじいさんは気の毒に思い、雪を払ってやり、持っていたスゲ笠をかぶせてあげました。一つ足りなかったので、「おらのでわりいが、こらえてくだされ」と言って六番目のお地蔵さんには、自分の手拭いをかぶせてあげました。そして、家に帰りました。おばあさんに話すと、「それはいいことをした」と喜んでくれました。その夜は、ご飯と漬物だけ食べて寝ました。ところが、明け方ごろ、「よういさ、よういさ」という掛け声と共にそりを引く音が聞こえてきました。そして、家の前で、何か重いものがドスンとおろす音がしました。おじいさんが雨戸を開けてみると、お正月の餅や、魚や食べ物がどっさり入った俵が、軒下においてありました。向うを見ると、手拭いと編み笠をかぶった六体の地蔵さんたちがそりを引いて帰っていくところでした。
これは「笠地蔵」というお話です。おじいさんは、吹きさらしの雪の中で冷たくなっているお地蔵さんに、持っていた売り物の笠や自分の手拭いをかぶせてあげました。自分たちの明日からのことは、少しも考えないで、お地蔵さんのために、善いことをしてあげたのです。
私たちは、これからのことや、明日のことをあれこれと心配します。でもその日の苦労はその日で十分なのです。イエス様はおっしゃいました。「自分の命のことで何を食べようか、何を飲もうかなど、思い悩むな。あなた方の天の父は、あなた方に必要なものをよくご存じなのだ。だから、何よりもまず神様の、み旨にかなった生活をしなさい。そうすれば、これらのことは加えて与えられる。」
余計な心配はいらないのです。神様の計らいに、すべてをゆだねて、あのおじいさんのような心で、生きていくことができますように。