2023年04月14日
朝の話(阿部神父)
度量の大きな人間になる——学問によって心の資源としての洞察をたくわえる(リソースフル)
はじめまして。このサレジオ学院の常務理事を務めております阿部仲麻呂です。自己紹
介します。およそ30年ぶりです。以前は、この学校の社会科教員でした。その後は哲学や
キリスト教神学の研究者として歩んでいます。そして、毎週、東京カトリック神学院や福
岡カトリック神学院に通って教えており、司祭を目指す人たちの学問的養成に携わってい
ます。1968年東京都渋谷区生まれですので、いまは54歳です。1981年に、この学校に入
学し、テニス部に所属していました。22期生です。1982年に洗礼を受け、83年にサレジオ
志願院に入り、97年に司祭になりました。この学校では、1992年から94年まで世界史と倫
理と地理を教えました。これから再び御世話になります。
さて、1987年に高校三年のときに決意しました。研究者になろうと。その後36年間、哲
学と神学の研究者として歩んでいます。これまでに44冊の本の作成に携わり、他にもたく
さんの論文を書きました。どうして研究者となる決意をしたかと言うと、幼い頃から本を
読んで考えることが大好きだったからです。
たくさん読んだ本のなかで特に感動したものが『太平記』や『平家物語』などの作品で
した。人生が闘い抜くことの連続であることに共感し、いかに困難を切り抜ければよいの
かを学びました。そして滅びゆく者たちの最期のきらめきとはかなさにも心をゆさぶられ
ます。桜の花が全力投球で咲き誇ってから潔く散るように生きることに心を寄せています。
何よりも恩師の英語学者の渡部昇一先生の『発想法—リソースフル人間のすすめ』講談
社、1981年、という一冊から大きな影響を受けました。学問研究の基本的な姿勢を学ぶこ
とができたからです。その本は「再びわきだす」という意味の「Resourceful」(リソース
フル)という言葉を解説しています。さまざまな実例がたくさん挙げられているので非常
に身近で愉しく読めます。しかし奥深い洞察に満ちています。
「リソースフル」とは「そのときどきの状況に対応できる能力」のことです。もともと
の意味は「補給力があること」あるいは「資源が豊富にあること」または「圧倒的な財産
を所有していること」というイメージです。第二次世界大戦中に日本とアメリカが戦争し
たときに、日本は石油資源や食糧がなくて常にカツカツで闘っていたのに対してアメリカ
は次から次に戦闘機や空母を増やして圧倒的な武器と食糧補給によって常にゆとりのある
闘い方をしました。圧倒的な能力を鍛え上げて常に備えていることで、長い期間のいくさ
にも耐え抜くゆとりをもつこと。そして心の富を増やすこと。次々に困難がふりかかる過
酷な人生を生き抜くには、ゆとりある度量の大きな人間になる必要があります。学問は度
量の大きな人間になるための貴重な資源です。たくさんの本を読むことが昔の人たちの洞
察を受け継いで心を大きくすることなのです。度量の大きな人間になることは魅力があり
ます。