3学期始業式の話<ポテトチップスを消費すると地球温暖化が進む>
あけましておめでとうございます。新しい1年頑張っていきましょう。年の始めに当たってこの1年、神様の祝福がありますよう「主の祈り」を唱えましょう。特に高校3年生のために。
さて今日のお話のテーマは「ポテトチップスを消費すると地球温暖化が進む」です。ただチップスと温暖化の間にはもう少し複雑な因果関係のリンク、連鎖があるのでその説明をしましょう。
ポテトチップスはじゃがいもを揚げたものです。「揚げる」ためには油が必要です。因果関係のリンクの1つめは油です。油もたくさんの種類がありますが、ポテトチップスなどを揚げる油で1番多いものは植物油です。そして植物油の中でもパーム油が一番多く使用されています。パーム油は効率的に安く生産できるため、たとえば日本での消費量の1/4がパーム油ですし、日本人は1年で平均5kgのパーム油を消費しているそうです。パーム油の特徴は固めても溶かしても使えるという便利さです。固めては口どけなめらかなマーガリン、溶かしてはサクッと仕上がる揚油として。食品メーカーとして使いやすい油です。
このパーム油は油ヤシ(オイルパーム)という植物からとれます。ふつう「やし」というとココナツやしですが、この油ヤシは別の種類です。ということで因果関係の次のリンクは油ヤシという植物です。パームオイルはこの油ヤシの果実からとれる油です。一房約30kgのなかに約200粒もの果実が詰まっています。その果実や種を絞ってとれるのがパームオイルです。油ヤシは西アフリカや中南米原産で、熱帯地帯で生育している植物です。古くから油を取るため中部アフリカの熱帯雨林地帯で栽培されてきました。現在ではインドネシアとマレーシアがパーム油の総生産量の80%を占めています。
話を進めましょう。このように便利な油ヤシをさらに効率よく生産するためにどうしたらいいでしょうか。あちこち回ってばらばらに生えている油やしを収穫するのではなく、ひとところに油ヤシを植え一挙に実を収穫すればいいのです。これがプランテーションです。プランテーションとは一般に広大な農地に大量の資本を投入し、単一作物を大量に栽培する大規模農園を意味します。モノカルチャーとも言います。次のリンクはこのプランテーションです。
それではプランテーションと地球温暖化のつながりはどのようなものでしょうか。プランテーションはもともとあった森林を伐採し、そこに生産したい植物を植えます。油ヤシは熱帯雨林地帯に育つので、油ヤシのプランテーションにはもともと熱帯雨林があったはずです。実際インドネシアやマレーシアではプランテーションのために森林伐採が大規模に行われ、マレーシアでは過去20年間で油ヤシ農園のために360万ヘクタールの森林が伐採されたそうです。これは九州全体の面積に相当します。ボルネオ全体では40%の森林が消失しています。この森林伐採がポテトチップスと温暖化とを結びつける最後のリンクです。
しかしここで一つの疑問が残ります。「森林伐採によってなぜCO2が発生しているのか?」そのメカニズムを説明しましょう。インドネシアやボルネオの油ヤシ・プランテーションはもともと泥炭湿地林を開墾してできたものです。泥炭湿地とは沼のような土地です。倒れた木はこの湿地の沈みに積み重なります。つまり泥炭地は炭素の塊なわけです。森林で覆われていた時には湿っているからいいのですが、森林が伐採され太陽の光にさらされ沼が乾燥すると火災などで一旦火がつくと広範囲に燃え広がってしまうのです。その煙は今範囲に及び観測衛星からも確認できるほどです。つまり森林伐採で起きた火災が発生させる煙つまりCO2が温室効果をもたらすわけです。
「ポテトチップスを消費すると温暖化が進む」という表現の間にある因果関係の連鎖を紹介してみました。みなさんはどう感じましたか?実は森林伐採は単に温室効果ガスを排出する原因になるだけでなくその他にも環境や社会に悪影響を与えています。最後にそれを説明します。一つ目は「生態系の多様性の破壊」です。スマトラ島では森林減少によって像や虎の住処がなくなりつつあります。ボルネオ島ではオラウータンの生息地の約80%が消失し、生息数が90%減少しました。二つ目は「先住民の強制立ち退き」です。森林では先住民が生活していましたが、農園を広げるために人々は強制的に立ち退きを迫られました。三つ目は「子供などの強制労働」。プランテーションでの労働力は先住民に任されその中でも特に子供達もプランテーションで働かされる。つまり油ヤシ・プランテーションは社会人権問題も引き起こされているわけです。
私たちの世界を取り巻く出来事は様々な因果関係が複雑に絡み合っているということを知ってもらえたでしょうか。持続可能な世界を作り上げていくことに世界的に注目が集まっています。私たち一人一人が大きな社会変革に貢献することは難しいかもしれません。しかしどんなアクションを起こす際にも必要な最初の一歩、つまり「関心を持って調べること」、」知ること」を誰でもできます。みなさんも社会構造、経済構造の中にある因果関係に興味を持って自分で調べてみてください。